健康長寿

笑顔あふれる健康長寿社会を目指しましょう

健康な状態で長生きしたいということは、多くの人にとって共通の願いでしょう。世界に先駆けて超高齢社会を迎える日本では、国民が健康な生活と長寿を享受できる健康長寿社会の実現が急務となっています。

日本人の平均寿命は、男性が80.89歳、女性が87.38歳(厚生労働省「平成28年簡易生命表」)と、男性、女性とも世界トップクラスとなっています。また、65歳以上の高齢者の総人口に占める割合(高齢化率)は世界に類を見ない速さで増えており、2060年には39.9%に達すると予想されています。こうした高齢化に伴って、認知症や生活習慣病、関節疾患などのために介護が必要となる高齢者が増えており、高齢社会に対応するためには、単に長生きをするだけでなく、「食べる」「話す」「笑う」といった日常生活の基本的な機能を、人生の最後まで全うすることを目指すべきであり、笑顔のあふれる真の健康長寿社会の実現に向けて、歯科医療や口腔健康管理の充実が必要です。

新潟県歯科医師会は、国民のための積極的な政策提言を行い、国民と共に地域におけるアクションを起こしていきます。

特に重点的に取り組む課題

1)歯科医療の充実と適切な財源の確保
 我が国の医療費の規模を見ると、主要国はいずれも高齢化に伴い増大しているが、高齢化を踏まえれば欧米よりまだ相対的には低い水準にあると見ることができる。さらに、その中に占める歯科医療費の割合は顕著に低下してきている。このように見ると、国民のニーズに応える水準の歯科医療サービス提供が十分にできていない現状にあると言える(図表 1)(図表 2)。
 一方、我が国の社会保障全体を見ると、高齢化やそれに対応した機能強化、医療の高度化等に伴いその総額が拡大してきたが、全体としては十分な財源確保ができず、いわば「給付先行型福祉国家」というべき状況が続いている。 特に、医療については、税、保険料、患者自己負担という財源構成となっている中で、主要な財源の一つである消費税は昨年(2019 年)10%に引き上げられたところであるが、今後ますますニーズの拡大が見込まれるところであり、この国民ニーズに対応するためにはあらゆる面で財源の確保が求められる。 現状でも十分な水準ではない我が国の歯科医療の規模を国民ニーズに応えられる水準にしていくため、更なる国民の理解を得ながら、歯科医療の充実と適切な財源確保に努めていくことが必要である。

2)患者に対する歯科医療サービスの充実と患者の QOL の向上への寄与
 「う蝕の洪水」の時期において、その国民的課題に歯科医療は総力を挙げて立ち向かい、大きな成果を上げたことは先に述べたとおりである。しかし、その後のう蝕の減少期に、「患者へのきめ細かな診療のための治療時間や治療体制の確保」「患者一人一人の生活や人生に寄り添う歯科医療への転換」へ向けての必要な財源確保や質の高い歯科医療への評価を得られなかったことが、歯科医療費の水準が低い現状の底流にある。
 また 1984(昭和 56)年から 1998(平成 10)年までの 20 年近くにおいて、薬価引き下げによる診療報酬改定財源が歯科に振り分けられず、特に 1984(昭和 56)年から平成 6(1994)年の 10 年の平均改定率は、医科の 3.4%に対し、歯科は 1.6%と半分以下であり、歯科医療の技術や価値にふさわしい適切な評価が確保されなかったといえる。
 このため、今後は、国民の理解と納得を得ながら、歯科医療サービスの充実と患者の生活と人生に寄り添い、人生の質(QOL)の向上に積極的に寄与していく歯科医療を目指していく。
 長寿社会においては「食べる」「話す」「笑う」という生活の基本的な機能を最後まで維持することが重要であり、我々はそのための責務を全うしていく。この観点に立ち、以下の各章に述べられているように、歯科医療の質の向上(診療時間や従事者数、感染防止対策の充実強化)、イノベーション(新技術の導入と保険診療への取り込み、
歯科診療所の機能強化)、最後まで幸せに生ききるための食支援(口腔機能の維持向上、オーラルフレイル対策、訪問歯科診療の充実)などに総合的に取り組んでいきたい。

3)社会保障にかかる総費用の効率化
 今後の 20 年を展望すると、高齢者の数の増加が穏やかになる一方で、若年層の数が減少し、社会保障にとってはその担い手、支え手が減少していくことが見込まれている。こうした中で、持続可能な社会保障を考えていくためには、医療の充実を進める一方で効率化も視野に入れることが必要になっている。歯科の分野においても、こうした観点からの貢献を目指していきたい。そのため、近年は歯科医療の効果についても調査、分析とエビデンスの蓄積に努めてきた。この結果、歯科医療、口腔健康管理の充実は、単なる歯科医療の質の向上に資するのみだけではなく、医療ニーズの総量を減らすという、国民にとっても国の財政にとっても大きな貢献に繋がることが明らかになってきている。
 例えば、入院中の口腔機能管理の徹底により、いずれの診療科においても在院日数の削減効果が統計学的に有意に認められ、その効果は 10%以上あることが明らかになっている(図表3)。口腔機能管理によるこのような効果が現れるメカニズムは、病原菌のコントロールにより粘膜免疫の負担が軽減され、その結果、創傷治癒の促進や、合併症の減少が図れる結果とされているが、将来に向けて更なる検証も進めたい。いずれにせよ、口腔に近い領域だけではなく、侵襲が大きな治療の際に、口腔機能の管理がいかに重要であるかを示したデータであり、歯科医療が全身状態に大きく影響することを立証している。また、在院日数だけでなく、抗菌剤の投与期間も縮減できるというデータもあり、病院における歯科医療、口腔機能管理の徹底は「医療ニーズの総量の縮減」を通じて、患者にとっても、医療保険財政にとっても大きなメリットをもたらすものである。
 また、歯の数と医療費の関係も明らかになっている。図表 4 は NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を活用した 230 万件の医科、歯科のレセプト(診療報酬請求明細書)の統合分析の結果を示したもので、男女を問わず、あらゆる年齢層で、歯の数が 20 本以上のグループは 19 本以下のグループより、医科医療費が低いことを明らかにしている。30 年前の 1989(平成元)年から展開を始めた 8020 運動は図表 5 に示したとおり、国の健康日本
21 での目標値を上回るスピードで成果を挙げてきたが、我が国の医療保険財政にも貢献してきたことは明らかである。
 このように口腔機能管理を含む歯科医療の充実は、患者、国民にとっての大きな利益に繋がるとともに、医療保険財政ひいては国の財政へも貢献する。したがって、今後とも、入院患者や在宅患者、施設入所者を含め、すべての国民が質の高い歯科医療サービスを円滑に受けられるよう、2040 年に向けての国の医療政策の中で必要な支援を推し進めることが重要である。

4)新型コロナウイルス感染症を踏まえた歯科医療
 2020(令和 2)年 1 月に国内最初の新型コロナウイルス感染症が確認されてから今日まで、この問題は一感染症にとどまらず、世界全体の未来に向けて、多くの問題を提起し、また様々な変化を求め続けている。特にこの問題には「疾病による生命の危機」と「国家の経済の危機」という、対応において相互に影響する側面が存在し、これまでの価値観や倫理観までも問い直す問題となっている。
 我が国が近年、財政立て直しの視点、経済的視点で進めてきた医療政策に対しても「有事にあって国民の健康と生命をいかに守るのか」という社会保障の原点とも言うべき命題を明確に提起した。
 そのような中、現時点ではこの新たな「ウイルス感染症」への対応は長期にわたるとの認識のもとで、国は感染拡大が常に起こりうる状況を想定した「新しい日常」を示そうとしている。「2040 年を見据えた歯科医療」も、この「新しい日常」にふさわしい姿としたい。
 当面の最も重要な視点は感染防止対策であり、「臨床現場における感染防止」については、少なくとも現時点まで、歯科治療を通じての感染拡大の事例やクラスター発生の事例報告がないことが注目される。改めて、日頃から歯科医療現場における感染防止対策や、今回標準予防策に加えて講じた対応も含めて、効果やコストも検証し、今後の流行に備えて更に強化する必要がある。診療現場が密にならないために講じた、診療時間、診療回数、予約調整等も含めた診療体制のあり方も議論が必要と考える。
 「日常生活における感染防止」については、ウイルス感染に口腔健康管理が有効であることのエビデンスを更に整理し、発信していく。そして日常生活の中での口腔健康管理を、かかりつけ歯科医機能のひとつとして位置づけることも重要となる。
 その他、今回の感染防護用品の供給が破綻に近い状況だったことを改善し、生産、流通、備蓄の体制を確保、強化することが強く求められる。今後同様の感染拡大があった場合に、対面診療ではなく、在宅でどのような指導管理等を行うべきか、またウイルス感染者への緊急歯科医療を行う際の提供体制の整備と明確化や、そのための人材育成も重要である。


 以上について、診療報酬上の評価を含む議論を深め、これまでも目指してきた「生涯にわたり国民の生活に寄り添う歯科医療」として実現していく。


日本歯科医師会 2040年を見据えた歯科ビジョン―令和における歯科医療の姿― より抜粋)

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